歯科衛生士として10年近く働いていますが、最近特に増えているのが「食いしばり」の患者さんです。
初診で来られた方のお口の中を見た瞬間、「あ、この方、食いしばってるな」ってすぐ分かります。本人は全く気づいてないことが多いんですけどね。
実は、日本人の約70%が何らかの形で歯ぎしりや食いしばりをしていると言われています。そして、そのほとんどの方が自覚症状がない。
今日は、歯科衛生士の目線から「食いしばりをしている人の特徴」と、その対策についてお話しします。もしかしたら、あなたも当てはまるかもしれません。
食いしばりとは?歯ぎしりとの違い
まず、基本的なところから。
食いしばり(クレンチング)
- 音はしない
- 上下の歯をギュッと噛み締める
- 日中も無意識にやってることが多い
- 本人が気づきにくい
歯ぎしり(グラインディング)
- ギリギリと音がする
- 歯を横にこすり合わせる
- 主に睡眠中
- 家族に指摘されて気づく
どちらも歯や顎に大きな負担をかけますが、今日は特に気づきにくい「食いしばり」にフォーカスします。
口の中を見ればすぐ分かる!食いしばりの特徴
歯科衛生士として患者さんのお口を見た時、食いしばりをしている方には共通する特徴があります。
特徴1:歯が平らにすり減っている
これが一番分かりやすいサインです。
通常、歯の先端(切端)には多少の凹凸があるんですが、食いしばりをしている方の歯はまるでヤスリで削ったように平らになっています。
特に犬歯や前歯の先端。20代、30代なのに、60代の方の歯みたいにすり減ってる人もいます。
「先生、私の歯、短くなってませんか?」って気づく方もいますが、多くの方は「もともとこんな感じだった」と思ってます。
特徴2:歯の根元に「くさび状の削れ」がある

専門用語で「楔状欠損(くさびじょうけっそん)」と言います。
歯の根元、歯茎との境目あたりが、Vの字に削れている状態。これ、虫歯じゃないんです。
食いしばりによる過度な力が歯に加わると、エナメル質が割れて欠けていくんです。特に犬歯や小臼歯に多く見られます。
ここが削れると、冷たいものがしみる知覚過敏になります。
特徴3:詰め物や被せ物がよく取れる・割れる
「なんか詰め物がよく取れるんですよね」 「この前治療したばっかりなのに、また欠けちゃって」
こういう方、だいたい食いしばりが原因です。
普通に噛む力は、自分の体重くらい。でも、食いしばるとその2〜3倍、場合によっては100kg以上の力が歯にかかります。
そんな力が毎晩何時間もかかり続けたら、詰め物だって取れますよね。
特徴4:舌や頬の内側に「歯の跡」がついている
舌の縁をよく見てください。ギザギザと歯の形の跡がついていませんか?
頬の内側(粘膜)にも、白い線が入っていることがあります。これは「咬合線(こうごうせん)」と言って、食いしばりで頬や舌が歯に押し付けられてできた跡です。
朝起きた時に舌や頬に跡がくっきり残ってる方は、間違いなく夜中に食いしばってます。
特徴5:下顎の内側に骨の出っ張り(骨隆起)がある
下の歯の裏側、舌の下あたりを触ってみてください。ボコッと骨が出っ張っていませんか?
これ、「下顎隆起(かがくりゅうき)」といって、食いしばりや歯ぎしりによる刺激で骨が成長したものです。
上顎の真ん中にできることもあります(口蓋隆起)。
悪いものじゃないんですけど、食いしばりのサインの一つです。大きくなると、入れ歯を作る時に邪魔になることもあります。
特徴6:歯茎が下がっている・歯が長く見える

食いしばりによる過剰な力で、歯茎が下がって歯の根元が露出してくることがあります。
「最近、歯が長くなった気がする」 「歯と歯の間に隙間ができてきた」
こういう場合も、食いしばりが原因の可能性が高いです。
特徴7:歯にヒビが入っている

よく見ると、歯の表面に細かいヒビ(亀裂)が入ってることがあります。
ライトを当てると、クモの巣みたいに細かい線が見える。これも食いしばりによる過度な力が原因です。
このヒビから虫歯菌が入ったり、最悪の場合、歯が割れて抜歯になることも。
見た目だけじゃない!こんな症状があったら要注意
お口の中だけでなく、体の症状からも食いしばりが分かります。
朝起きた時に顎が疲れている・痛い
「朝起きると、なんか顎がだるいんです」 「顎が痛くて口が開けにくい」
これ、典型的な食いしばりの症状です。
寝ている間ずっと顎の筋肉を使っているので、朝起きた時に筋肉痛みたいになってるんです。
頭痛や肩こりがひどい
意外かもしれませんが、食いしばりと頭痛・肩こりは関係があります。
顎の筋肉(咬筋)は、こめかみや首、肩の筋肉とつながっています。だから、顎の筋肉が緊張すると、頭痛や肩こりも起こりやすくなるんです。
特に「こめかみのあたりがズキズキする」という緊張型頭痛は、食いしばりが原因のことが多いです。
エラが張ってきた・顔が四角くなった
「最近、顔が大きくなった気がする」 「エラが張ってきた」
これも食いしばりの可能性大。
食いしばりを続けていると、咬筋が発達して大きくなります。そうすると、顔の輪郭が四角く見えるようになるんです。
女性の患者さんで、小顔矯正に行ったけど効果がなくて、実は食いしばりが原因だったというケースも多いです。
歯や顎が痛い・しみる
知覚過敏の症状がある方も要注意。
歯の根元が削れたり、エナメル質にヒビが入ったりすると、冷たいものや熱いものがしみやすくなります。
「虫歯じゃないのにしみる」という場合、食いしばりが原因のことが多いです。
口が大きく開かない・カクカク音がする
顎関節症の症状です。
- 口を開けると顎が「カクン」と音がする
- 大きく口を開けられない(指3本分入らない)
- 顎が痛い
食いしばりを長く続けていると、顎関節に負担がかかって、顎関節症になることがあります。
食いしばりをしやすい人の性格・生活習慣
臨床経験から、食いしばりをしている方には共通する傾向があります。
性格面
几帳面・真面目・責任感が強い 完璧主義の方、仕事を一人で抱え込んじゃう方に多いです。
ストレスを溜め込みやすい 不安や緊張を感じやすい方。
我慢強い 「まあいいか」と流せなくて、ちゃんとやらないと気が済まない方。
生活習慣
パソコン仕事が多い デスクワークで集中している時、無意識に食いしばってる方、めちゃくちゃ多いです。
スマホを見る時間が長い 下を向いている時間が長いと、顎に負担がかかります。
スポーツをしている 特に重いものを持ち上げる時や、瞬発力が必要な時に食いしばってしまいます。
姿勢が悪い 猫背や首が前に出ている姿勢だと、顎に余計な力がかかります。
セルフチェック:あなたは食いしばってる?
こんな症状、心当たりありませんか?
□ 朝起きた時、顎が疲れている・痛い
□ 頭痛や肩こりがひどい
□ 歯がしみる(知覚過敏)
□ 詰め物や被せ物がよく取れる
□ 歯が短くなった・すり減った気がする
□ エラが張ってきた
□ 舌や頬に歯の跡がつく
□ 集中している時、無意識に歯を噛みしめている
□ ストレスが多い □ 睡眠の質が悪い
3つ以上当てはまる方は、食いしばりの可能性が高いです。
食いしばりを放置するとどうなるか
「別に痛くないし、様子見でいいかな」って思ってませんか?
食いしばりを放置すると、こんなリスクがあります。
1. 歯が割れる・ヒビが入る
過度な力が加わり続けると、歯にヒビが入ったり、最悪の場合、歯が根っこから割れます。
割れてしまった歯は、残念ながら抜歯するしかありません。
私が担当した患者さんで、30代で奥歯が割れて抜歯になった方がいます。「まさか自分が入れ歯になるなんて…」ってショックを受けてました。
2. 顎関節症になる
顎が痛くて口を開けられない、硬いものが噛めない。
ひどくなると、日常生活に支障が出ます。治療も大変です。
3. 歯周病が進行する
食いしばりによる過剰な力は、歯周組織(歯茎や骨)にもダメージを与えます。
歯周病がある方は、食いしばりによって進行が加速することも。
4. 見た目が老ける
歯がすり減ると、顔の下半分が短くなって老けて見えます。
また、エラが張ると顔が大きく見えるし、歯茎が下がると歯が長く見える。
審美的にもマイナスです。
5. 高額な治療費がかかる
割れた歯を抜いて、インプラントやブリッジで治療すると、数十万円かかります。
食いしばりを早めに対策しておけば、そんなお金かけなくて済むのに。
歯科衛生士がおすすめする食いしばり対策
では、どうすればいいのか。実際に患者さんに指導している内容をシェアします。
対策1:まず「気づく」こと
日中の食いしばりは、意識すれば改善できます。
「上下の歯は、離れているのが正常」
これ、知ってましたか?
普段、何もしていない時、上下の歯は触れていないのが正常な状態なんです。触れているのは、食事の時だけ。
デスクやパソコンに「歯を離す」って付箋を貼っておく。これだけでも効果あります。
対策2:ナイトガード(マウスピース)を使う
夜間の食いしばりには、これが一番効果的です。
歯医者さんで自分の歯型に合わせて作ってもらうマウスピース。寝る時につけるだけで、歯や顎への負担が大幅に減ります。
費用:保険適用で5,000円前後
効果
- 歯のすり減りを防ぐ
- 顎の筋肉への負担軽減
- 朝起きた時の顎の疲れが改善
- 頭痛や肩こりも軽減
私の患者さんで、ナイトガードを使い始めてから「10年悩んでた頭痛がなくなった」って方がいます。
注意点
- 市販のものより、歯医者さんでちゃんと作ったものの方が効果的
- 最初は違和感あるけど、1週間くらいで慣れる
- 定期的に調整が必要
対策3:ストレス対策
食いしばりの根本原因は、ストレスであることが多いです。
おすすめのストレス解消法
- 深呼吸(1日3回、5分ずつ)
- 軽い運動(ウォーキング、ヨガ)
- 十分な睡眠
- 趣味の時間を持つ
- 人に話を聞いてもらう
完璧主義の方は、「まあいいか」と思える余裕を持つことも大事です。
対策4:顎周りのマッサージ・ストレッチ
緊張した筋肉をほぐしてあげましょう。
咬筋マッサージ
- 耳の下、エラのあたりに指を当てる
- グッと力を入れて噛み締めると、筋肉が盛り上がる部分がある
- その部分を、円を描くようにマッサージ(30秒×3セット)
顎のストレッチ
- 口を大きく開けて5秒キープ
- ゆっくり閉じる
- 左右にゆっくり動かす
- これを1日3回
お風呂で体が温まっている時にやると、より効果的です。
対策5:姿勢を改善する
猫背やストレートネックは、顎に余計な負担をかけます。
意識すること
- デスクワークの時、顎を引いて背筋を伸ばす
- スマホを見る時、目線の高さに持ってくる
- 1時間に1回は立ち上がって体を動かす
姿勢が良くなると、食いしばりだけじゃなく肩こりや頭痛も改善します。
対策6:カフェイン・アルコールを控える
カフェインやアルコールは、睡眠の質を下げます。
睡眠が浅いと、食いしばりや歯ぎしりが増えるんです。
特に寝る前3時間は、コーヒーやお酒を控えるのがおすすめ。
対策7:定期的に歯科検診を受ける
食いしばりによる歯のダメージは、早期発見・早期対応が大事。
3〜6ヶ月に1回、歯医者さんでチェックしてもらいましょう。
歯科衛生士や歯医者さんが、あなたの歯の状態を見て、適切なアドバイスをしてくれます。
患者さんからよく聞かれる質問
Q1:ナイトガードは一生使い続けるんですか?
A:基本的には、長期的に使っていただくことをおすすめします。
ただし、ストレスが軽減されたり、日中の食いしばりをコントロールできるようになれば、症状が改善することもあります。
まずは3ヶ月〜半年使ってみて、様子を見ましょう。
Q2:子供も食いしばりますか?
A:はい、子供も食いしばります。
特に歯の生え変わり時期は、噛み合わせが不安定なので、歯ぎしりや食いしばりをすることがあります。
多くの場合、成長とともに自然に治まりますが、気になる場合は小児歯科で相談してください。
Q3:ボトックス注射は効果ありますか?
A:美容クリニックで、咬筋へのボトックス注射をしている方もいます。
筋肉の動きを抑えるので、食いしばりの軽減やエラの縮小効果はあります。
ただし、効果は数ヶ月で切れるので、定期的な注射が必要です。また、保険適用外なので費用がかかります(1回3〜5万円)。
まずは、ナイトガードやストレス対策など、基本的な方法から試すことをおすすめします。
Q4:整体やマッサージは効果ありますか?
A:顎周りの筋肉をほぐすマッサージは、一時的な症状緩和には効果があります。
ただし、根本的な解決にはなりません。
食いしばりの原因(ストレス、噛み合わせの問題など)に対処しないと、またすぐに症状が戻ってしまいます。
Q5:食いしばりは完治しますか?
A:正直に言うと、「完治」は難しいです。
でも、適切な対策をすることで、症状をコントロールして、歯や顎へのダメージを最小限に抑えることはできます。
大事なのは、「食いしばりと上手に付き合っていく」という意識です。
実際の症例:放置した場合と対策した場合
ケース1:放置したAさん(45歳・男性)
初診時に食いしばりの兆候があったものの、「特に痛くないから」と何もせず。
5年後、奥歯が根っこから割れて抜歯に。インプラント治療で約55万円かかりました。
他の歯も削れてボロボロで、全体的な治療が必要に。総額で約100万円以上の治療費がかかってしまいました。
ケース2:対策したBさん(38歳・女性)
初診時に食いしばりを指摘し、すぐにナイトガードを作成(約5,000円)。
ストレス対策や日中の意識づけも行い、3ヶ月後には朝の顎の痛みが消失。
5年経った今も、定期検診でナイトガードの調整をしながら、歯のすり減りも最小限に抑えられています。
この差、大きいですよね。
最後に:早めの対策が大事
歯科衛生士として、本当に伝えたいのは「早めに気づいて、早めに対策してほしい」ということ。
食いしばりは、気づかないうちに歯や顎にダメージを与え続けます。
でも、適切な対策をすれば、そのダメージを最小限に抑えることができるんです。
今日からできること
- 自分が食いしばってないか、意識してみる
- 舌や頬の内側、歯の状態をチェックしてみる
- 症状があれば、歯医者さんで相談する
「たかが食いしばり」って思わないでください。
放置すると、大切な歯を失うことになりかねません。
もし心当たりがあれば、ぜひ一度、歯医者さんに相談してみてくださいね。
引用文献・参考資料
- 日本顎関節学会「顎関節症の診断と治療に関する指針」
- ブラキシズムの診療ガイドライン睡眠時ブラキシズムの治療(管理)について
- 日本口腔衛生学会「口腔保健と全身の健康」2020年学会報告
- 窪木拓男ほか「咬合力測定による食いしばりの評価」日本補綴歯科学会誌, 2016; 8(2): 156-163.
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「歯ぎしり・食いしばりと健康」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
関連リンク
- 日本歯科医師会:https://www.jda.or.jp/
- 日本顎関節学会:http://kokuhoken.net/jstmj/
- 日本歯科衛生士会:https://www.jdha.or.jp/
平成30年に歯科衛生士免許を取得。
臨床現場で多くの患者さんの口腔ケアに携わる中で、
「毎日歯を磨いているのに、なぜ磨き残しが出るのか」
「どう伝えれば、セルフケアの行動が変わるのか」
という点に関心を持つようになる。
その後、医療現場を“外側”からも理解するため、
関西学院大学大学院 経営戦略研究科(MBA)を修了。
現在は、歯科衛生士としての臨床経験と、
経営・行動変容の視点を掛け合わせ、
「続けられるオーラルケア」をテーマに情報発信を行っている。
免責事項
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断や治療の代わりとなるものではありません。症状がある場合は、必ず歯科医師にご相談ください。




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